「ほめるしつけ」の第一歩は 信頼関係を築くことからスタートします!
Column: Motivational Training 1
今、家庭犬のしつけは「ほめるしつけ」が主流。しかし、どんなときでも、ただほめればいいというわけではありません。なぜ「ほめることが有効なのか」を考えながら、できるだけ具体例をあげて、このしつけのメソッドを解析してみたいと思います。
犬の「しつけ」を窮屈なものだと考えていませんか?
ひと昔前まで「犬のしつけ」は「人間に服従させる」「人の言うことを聞かせる」という意味でした。しかし、最近は、「犬のしつけ」はマナーを教えたり、人とコミュニケーションをとる方法を教えることが「しつけ」として認識されるようになっています。
そもそも、なぜ犬にしつけが必要なのでしょうか?
犬は奔放にあるがままの姿でいればいいとする考え方もあります。でも、それで本当に犬は幸せでしょうか?犬は人間の社会に寄り添って生きていますが、人間社会のルールをまったく知りません。犬にとって「吠える」「かじる」は当たり前の行動(本能的な行動)ですが、ほとんどの場合、周囲の人間はその行動を望ましいとは思いません。あたりかまわず吠えたり、家具や靴をかじったりするような犬は、人間の社会では敬遠されます。マナーを知らなければどこに行ってもつらい思いをします(この点は人間の子どもでも同様です)。ただし、それはできないのではなく、知らないだけのこと。飼い主さんがきちんと人間社会のルールを教えれば、必ずできるようになります。
家庭犬のしつけとは、人と犬がパートナーとして快適に過ごすために必要な社会のルールを伝えることです。犬の行動を制限したり、自由をうばって意のままにコントロールしたりすることではありません。
ここで、RSPCA(英国王立動物虐待防止協会)の「5つの自由」と名付けられた動物福祉基準を紹介しましょう。
●恐れや不安からの自由 (Freedom from fear and distress)
●飢えや渇きからの自由 (Freedom from hunger and thirst)
●不快からの自由 (Freedom from discomfort)
●ケガや病気からの自由 (Freedom from pain injury and disease)
●正常な行動をする自由 (Freedom to express normal behavior)
RSPCAは、1824年に設立された世界でもっとも歴史のある慈善団体で、本部はイギリスのサセックス州にあります。ここにあげた「5つの自由」とは、1993年に発表した「動物の保護・福祉および行動学に関する世界獣医学協会の指針」に含まれていた動物福祉の基準となる考え方です。ここでRSPCAは、犬に限らず、すべての動物に対してこれらの自由が保障されるべきだと説いています。
「ほめるしつけ」は、決してこの「5つの自由」に反するものではありません。ここにあげられた自由を保障するためにも、人間社会のルールを伝えることが大事なのだと思います。
信頼関係を築くためには、どうすればいいのでしょう?
犬は人の言葉を理解できないため、「しつけ」は決して簡単なことではありません。ルールやマナーを伝えるために、いっしょに繰り返しトレーニングすることになるため、お互いに信頼関係を築くことが重要です。飼い主さんと犬の間に強いきずながあれば、困難なことも乗り越えていけるはずです。
それでは、実際に強固な信頼関係を築くためにはどうしたらいいのでしょうか?
まず飼い主さんが犬に対して愛情をきちんと伝えること。態度ではっきり示すことが重要です。どんなに愛情を持っていたとしても、忙しくていっしょに過ごす時間が持てないようでは、犬に伝えることはできません。
そして、犬のほうから飼い主さんのことを好きになってもらえるように努力すること。そのためには、できるだけわかりやすく伝えることが重要です。「わかりやすさ」は犬に安心感を与えます。そしてその安心感が信頼を生みます。逆に、何を教えられているのかわからなければ、犬は不安になり、それが飼い主さんへの不信感となって表れます。
飼い主さんがどうふるまったらいいのかを具体的に説明してみましょう。
1 主導権を持つ、一貫性を持つ
頼りがいのある飼い主さんであるために、きちんと「主導権」を持つことが大事です。それは上の立場から一方的に命令を下すという意味ではありません。愛犬が困ったときにいつも答えを用意できるように配慮することが主導権を持つということ。そして、その答えがいつも同じであることも重要です。飼い主の気分によって答えを変えると、犬は混乱します。
2 「ダメ」で教えない
「それはダメ」「これもダメ」と怒ってばかりいると、犬が委縮してしまうかもしれません。いつも怒られていると、その状態に慣れてしまうということもあるかもしれません。禁止するだけではなく、きちんとほめることを忘れないようにしましょう。
3 わかりやすく「よいこと」を教える
犬が飼い主さんにとって望ましい状態になったら、すぐにほめましょう。例えば、飼い主さんの足元で愛犬が自主的にフセの姿勢をとったら、間髪を入れずにほめます(時間がたつと何に対してほめられたのか理解できません)。命令に従ったからほめるのではなく、「その行動はとてもいいよ」と積極的にほめることも忘れないようにしましょう。
4 人の言葉や常識を理解できないことを忘れない
「あれだけダメと言ったのに!」と怒る飼い主さんがいます。「なぜこんなイタズラをするの!」と問い詰める飼い主さんもいます。とっさに叱りたくなる気持ちもわかりますが、冷静に考えてみてください。愛犬は飼い主さんの言葉を理解できませんし、人間社会の常識もわかりません。根気よく、わかってくれるまで何度でも教えるという覚悟が必要です。
5 家族の中でルールを統一する
お母さんが「ノー」と言ったのに、お父さんは「オーケー」と言う……これでは犬が混乱します。言葉がわからない上に、いろんな人から違うメッセージを伝えられたら、混乱するのは当然です。家族で話し合って、きちんとルールをきめましょう。
こうやってあげてみると、犬の信頼を勝ち取るのは大変なことのようにも思えますが、ここをクリアしなければ、どんなトレーニングをしても効果は望めません。その意味で、信頼関係を築くことはしつけの第一歩と言えるかもしれませんね。
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